2026.2.25
釈宗演の生まれ故郷で、心をととのえ、学びと対話を深める三日間。〜釈宗演 ウェルビーイング・ZENリトリート2026〜
禅を「ZEN」として世界へ広めた高僧・釈宗演。鈴木大拙の師であり、夏目漱石をはじめとする多くの文化人がその教えにふれた、明治期を代表する禅僧です。
その生誕の地である福井県高浜町を舞台に、2026年2月1日から3日間、「釈宗演 ウェルビーイング・ZENリトリート2026」が開催されました。

海と山に囲まれた高浜町は、釈宗演が生まれ育ち、その思想や生き方の原点が育まれた場所でもあります。参加者は、坐禅や対話、食や暮らしの体験を通じて、宗演の足跡をたどりました。
また、幸福学研究の第一人者である前野隆司教授を迎え、マインドフルネスや幸福学の知見を手がかりに、自分自身と向き合い、学びと対話を通じて新たな気づきを得ていく時間が、参加者それぞれの中で、静かに積み重なっていきました。

開催期間中の高浜町は大雪。しかしその雪が、日常の喧騒から距離を置くきっかけとなり、リトリートの時間を、より深く、あたたかなものにしてくれました。
1日目 〜学ぶ〜|釈宗演の足跡をたどる
初日は、釈宗演ゆかりの地を巡りながら、この町で生まれ育った宗演の背景にふれる一日となりました。

佐伎治神社や生誕地の顕彰碑、月命日法要が営まれる長福寺、郷土資料館を訪ね、宗演が歩んだ道のりを、土地に残る記録や記憶とともにたどっていきます。高浜町という場所が、釈宗演の思想や生き方の土台になっていたことが、随所に感じられる時間でした。

夜は、アーティスト・金明姫さんのご自宅へ。雪のせいか、いつもよりもさらに静かな時間が流れているように感じられました。
▼金さんの手作りおやつ

ゆっくりと過ごしながら、それぞれが一日を振り返り、少しずつ心をほどいていくようなひとときです。そんな中、誰かの何気ない一言をきっかけに、急きょ始まったかまくらづくり。雪を掘り、形を整え、いつの間にかみんなが夢中になっていきました。



完成したかまくらの中で、坐禅を組む前野隆司教授。無邪気な笑顔を切り取った一枚から「幸せ」がにじみ出ていました。

2日目 〜体感〜|食を通して、釈宗演に近づく
2日目は、食を通して、この土地の文化や釈宗演の歩みにふれる一日となりました。

午前中は、民宿・登喜丘荘での、たかはま鮨づくり。

宗演の好物のひとつでもあった“すし”と、高浜町がすし発祥の地とされる歴史に思いを重ねながら、手を動かしていきます。登喜丘荘の自家製「へしこ」を使い、高浜ならではの味に仕上げました。

お昼は、一汁三菜のランチ。山崎さんに教わりながら胡麻豆腐を仕込み、午前中に作ったお鮨とともに、食卓を整えました。

釈宗演が鎌倉の禅寺・建長寺の管長を務めていたことにちなみ、この日の汁物はけんちん汁。一つひとつ丁寧に作られた料理を、ありがたく味わう時間となりました。

一般に僧侶は精進料理を口にするイメージがありますが、釈宗演は肉料理や中華料理も食べていたことが知られています。若い頃にセイロン(現在のスリランカ)へ留学し、托鉢で施されたものを分け隔てなく受け取る仏教の姿に触れたことが、その柔軟な考え方につながったとも言われています。決まった型にとらわれず、その場にあるものをいただく——この日の食の時間は、そんな宗演の姿勢を思い起こさせるものでした。


夜には松和塾での交流会も行われ、釈宗演の言葉やウェルビーイングについて、肩の力を抜いて語り合い、笑いの絶えない時間が続きました。


3日目 〜深める〜|言葉と坐禅、自分に立ち返る
最終日の朝は、大成寺(だいじょうじ)での坐禅の時間から始まりました。姿勢を正し、呼吸に意識を向けることで、外に向いていた意識が、少しずつ内側へと戻っていくのが感じられます。

坐禅のあとに行われたのは、釈宗演の言葉を手がかりに、「禅」と「現代の幸福学(ウェルビーイング)」について語り合う対談です。仏教的なZENの視点と幸福学の知見を行き来しながら、いまを生きる私たちの在り方や生き方を、じっくりと見つめ直していく時間となりました。

対談を通して強く感じられたのは、釈宗演の言葉が決して「過去の教え」ではなく、幸福学の研究からもその本質が裏付けられるように、「現代社会を生きる私たちにこそ必要な指針」として、あらためて私たちの中に響いてくる、ということでした。

そして同時に印象的だったのは、前野教授と松浦住職が、それぞれ異なる立場や専門性を持ちながらも、同じ方向を見つめ、言葉を重ねていく姿です。二人の対話が響き合うことで生まれた、穏やかでひらかれた空気の中に、参加者一人ひとりも身を置きながら、自分自身と向き合う時間を過ごしていたように感じられました。
▼中山寺にて

そして対談の後は、中山寺での護摩法要へ。秘仏「馬頭観音」に祈りをささげ、三日間にわたるリトリートは、静かな余韻とともに幕を閉じました。

禅と幸福学が出会う ——
前野隆司 教授 × 松浦鎮信 住職(大成寺)対談
・・・
この日の対談は、釈宗演顕彰会会長の伊藤さんによる釈宗演の紹介から始まりました。高浜町に生まれ、禅を「ZEN」として世界へ伝えた釈宗演が、どのような時代背景の中で思想を育み、どのようにその言葉を紡いできたのか。その歩みが語られ、参加者はあらためて宗演という人物像に向き合う時間となりました。
対談の司会進行を務めたのは、釈宗演アンバサダーでもある澁谷まりえさん。問いを投げかけながら、松浦住職と武蔵野大学ウェルビーイング学部長・前野隆司先生の言葉を丁寧につなぎ、和やかな対談の場がひらかれていきました。

対談の冒頭で取り上げられたのは、「一人でいる時も、客人を迎える時のような態度でいなさい」という釈宗演の言葉です。松浦住職は、相手や状況によって揺れ動く「相対的自己」と、どんな場面でも変わらずそこに在る「絶対的自己」という禅の考え方を紹介し、後者を深めていくことで、裏表のない生き方につながると語ります。その行き着く先にあるのが「無心」の状態であり、一人の時も人と向き合う時も同じ自分でいられる境地なのだといいます。
話題は次第に、仏教でいう「貪・瞋・痴(とん・じん・ち)」へと移っていきました。松浦住職は、欲や怒り、迷いは人間として自然に生じるものでありながら、それに振り回されている状態こそが「迷い」なのだと説明します。一方、前野先生は幸福学の視点から、欲しすぎることや他者との比較、正しさへの固執が幸福度を下げることを示し、「仏教と科学は、実は同じ方向を向いている」と語りました。

中盤では、釈宗演の「英雄の恐れなき態度と、子供のような心」という言葉が取り上げられました。前野先生は、「恐れなき態度」とは、何か大きなことを成し遂げる英雄像ではなく、社会の中で違和感を感じたことを、恐れずに表現する姿勢ではないかと語ります。
これを受けて松浦住職は、「英雄」という言葉以上に、「恐れなき」という部分にこそ本質があると説明しました。損得や評価を計算せず、考える前にまず動くこと。それが禅における「子供のような心」だといいます。その象徴として語られたのが、「ザルとバケツ」の逸話でした。雨漏りに気づいた弟子のうち、考えずにザルを持ってきた弟子が褒められたという話から、考えすぎて動けなくなるよりも、即座に行動することの大切さが示されました。
前野先生もまた、科学的にも考えすぎて行動しない状態は幸福度を下げることが分かっていると述べ、「完璧にやろうとするより、まずやってみる。そのほうが結果的に自分も楽になり、周りにも良い影響を与えることが多い」と語りました。

対談の終盤では、「内に向かうと利他になる」というテーマが語られます。外の評価や情報に振り回されるのではなく、自分の内側を見つめ直すことで、結果として自然に人のために動けるようになる。利他とは無理に目指すものではなく、内側が整った先に、自然と立ち現れるものなのだと、松浦住職は語りました。
参加者からは、「他人のためになれということと、自分のことを考えろということは矛盾しているように感じる」という質問も投げかけられました。それに対し松浦住職は、「その二つが、ある瞬間にピタッと重なる時が来る。そのために修行をしなければいけないんです」と、微笑みながら語ります。
「無心」とは、心がない状態ではなく、大きな心を持つ状態を思い描いてほしいと、松浦住職はいいます。小さな心ほど揺れ動きやすく、大きな心ほど貪・瞋・痴(とん・じん・ち)に振り回されない。その在り方こそが、「恐れなき態度」につながっていくのだと語られました。
最後に、「もし釈宗演が今生きていたとしたら、何を語るでしょうか?」という問いが、松浦住職に投げかけられました。

それに対して住職は、臨済禅を一言で表すなら、「絶対的な無常の中で人間を肯定すること」、そして「人間は絶対的に自由であること」の二つだと語ります。その体現者であった釈宗演は、枠にとらわれることなく、自由にさまざまな挑戦を重ねてきた人物でした。もし現代に生きていたなら、きっと世界中を飛び回りながら、禅の精神を伝えていたのではないか——そんな想像も語られました。
また松浦住職は、「自由」とは「フリーダム」ではなく、「自らに由る(よる)」ことだとあらためて説明します。だからこそ、もし釈宗演がいま生きていたとしたら、「とにかく坐禅をしなさい」と語るのではないでしょうか。そう言葉を添え、対談は静かに締めくくられました。
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