2025.7.30

獣害対策、そして薬草栽培。青葉山麓から明日を見つめる、松宮史和さん。


緑ゆたかな青葉山。その山麓で、力強く地域課題に向き合っている人がいます。

 

 

獣害対策の専門会社「エムアンドエヌ」の代表、そして青葉山麓研究所の所長でもある松宮史和(まつみやふみかず)さんです

 

 

「困っている人の力になりたい」と、狩猟免許を取り、獣害対策の会社を立ち上げた松宮さん。いまでは活動の幅を山の観光や薬草栽培にも広げ、地域の未来を育てる多彩な挑戦をされています。

松宮史和 さん

おおい町出身。滋賀大学教育学部で小中高の教員免許を取得、大学院へと進みながら滋賀県の中学校で数学講師を務める。地元おおい町へUターン後、消防士の道へ。その後、滋賀県でバーテンダーとして働き、そのスキルを生かして高浜町和田地区のカフェ・バー「ファミリア」のオープニングメンバーに。現在、獣害対策「合同会社エムアンドエヌ」代表、青葉山麓研究所所長。

 

 

「人のために力を使いたい」

獣害対策の会社設立へ。

 

小中高の教員免許を取得し、消防士、バーテンダーと多彩な経験を積んできた松宮さんですが、まったくの畑違いとなる獣害対策の会社を立ち上げるきっかけとなったのは、青葉山麓の内浦地区に住む祖父母から畑を荒らす獣害の悩みを聞いたことからでした。

 

 

松宮:

「消防士時代に、大きな失敗でたくさんの人に迷惑をかけたことがあって、これからは人のために力を使いたいと思っていました。そんなときに、おじいちゃん、おばあちゃんの悩みを聞いて、田舎の地域課題である鳥獣害を自分が解決できないかと思ったんです」

 

 

さらに、当時、猟師を目指す人が増えていた “若手ハンターブーム”にも背中を押され、狩猟免許を取得。2015年に獣害対策会社『エムアンドエヌ』を立ち上げたそうです。現在は松宮さんを含めたスタッフ4名で町内全域を対象にされています。

 

 

松宮:

「獣害と聞くと“ 捕獲 ”だと思われがちなのですが、それだけでは対策にはならないんです。エムアンドエヌでは、“ 捕獲 ”を含めた“ 柵の設置・点検 ” “ 放置果樹の伐採・剪定 ”の3本柱をメインに対策を行っています」

 

 

放置果樹を切るのは、栄養価の高い柿や栗などがエサとなり、動物たちの繁殖率を上げてしまうからなのだそうです。「初めて知りました」と伝えると、松宮さんは、農家の人たちも同じで、最初は獣害対策の知識も経験もなかったと話してくださいました。

 

 

松宮:

「電気柵の点検を行っても、皆さん最初は『うちの柵は問題ない』という感じでした。でも、電気が入ってなかったり、漏電してしまっていたり、獣害対策ができていない状態の柵が多くて。いま田畑にどんな被害が起こっているのか、柵をどんな状態で保てばいいのか、いろいろ話し合って、時間をかけて農家さんと一緒に点検・対策を行ってきました」

 

▼鹿の足跡

 

松宮:

「農家さんたちと対話を重ね、だんだんと信頼関係が築けてきたと思います。今では僕が指摘する前に『ここに穴があいている』と教えてくれる人もいるんですよ。獣害対策の主役はあくまで農家さんたちで、僕たちの仕事は支援。さらに獣害を減らしていくために、農家さんたち主体で対策が行えるようになることが理想です」

 

 

農家と課題を共有し、伴走し続けた結果、もともと最大1,000万円もあった被害額が、令和2年には50万円以下にまで減少したのだとか。この功績は鳥獣対策優良活動者として農林水産省に表彰されています。

 

 

また、環境教育の一環として地元小学校で獣害の授業を行うこともあるのだとか。松宮さんの獣害対策は「知識や経験を伝えていく」ことがベースとなっているのですね。

 

 

 

薬草栽培のはじまり。

 

獣害対策を行っているうちに、松宮さんは、農家の高齢化などによる耕作放棄地が増えていることを知り、どうにか活用できないかと考えるようになります。

 

 

松宮:

「高浜町の高野地区でつくったホウレンソウを食べたときに、美味しすぎて、ビックリしたことがあるんです。他の地域でつくったホウレンソウと味の濃さが全然違う。こんな野菜がつくれる土壌の畑が放置状態なのは本当にもったいないと思いました。そこで会社で畑をしようと考えたんです」

 

 

松宮:

「また、僕たちの畑が獣害対策を成功させていれば、農家さんが『実際に被害が出てないのなら、その対策を教えてよ』って納得して話を聞いてくれる。農業をすることは、獣害対策の事業にもいい影響があると考えました」

 

そうしてスタートした農業。最初は野菜をつくって、給食センターなどに納めていたそうですが、町役場から薬草をつくってみないかという提案があったことで、薬草の栽培農家をはじめることになりました。

 

 

松宮:

「いまでは薬草事業を進める『青葉山麓研究所』の所長も務めています。町内にハウスや畑をいくつか管理していて、収穫が終わって空いた畑に、違う種類の薬草を植えるローテーション栽培で育てています。収穫した薬草は生薬として出荷します」

 

 

ローテーション栽培には、土壌の健康を守り、病害虫の発生を抑えて、薬用成分の含有量を安定させるという利点があります。いま、畑ではアカジゾが大きく育っていました。

 

 

松宮:

「アカジソも収穫後は出荷しますが、生薬として使えなかった部分も廃棄するのではなく、商品開発などで活用しています。地元小学生のアイデアから染物や素麺といった商品も生まれました」

 

▼小学生が商品開発した「しそーめん」

 

薬草の栽培だけでなく、地域の産品として活用の幅を広げていく松宮さん。ほかにも、中学校で薬草栽培の授業を行うなど、次世代の子どもたちに薬草の魅力を伝える活動もされています。

 

▼内浦中学校で生徒と一緒に薬草栽培を行う様子

 

松宮:

「青葉山は約500種の有用植物が自生するだけあって、薬草栽培に向いた環境、土壌が整っています。青葉山麓研究所の所長として、薬草栽培、薬草の保全、薬草の魅力発信などをしっかりやっていこうと思っています」

 

 

 

 

山も海も知る

自分だからできること。

 

松宮さんは、青葉山の麓にある青葉山ハーバルビレッジ」の指定管理者として、山の観光振興にも力を注いでいます。

 

 

松宮:

「キャンプサイトを整えて、毎月マルシェを開催するなど新しいことにチャレンジしてきました。また、薬草に特化した食や薬草茶づくり体験なども行い、スタッフのみんなと一緒に賑わいづくりを頑張っています」

 

▼新しく設置されたシャワー棟

▼音楽イベントやマルシェなど、多彩なイベントを開催

 

松宮:

「実は、学生の頃からずっと浜茶屋でアルバイトしていて、いまでも続けているんです(笑)。僕は山も海も大好きなんですよ。だからこそわかるんですが、高浜ってポテンシャルがすごいんですよね。きれいな海も自然豊かな山もあって、食もおいしい。あっちこっちに魅力があるのに、それぞれが『点』で動いているのがもどかしいなって思います」

 

 

山も海も同じ高浜町。海の盛り上がりは山の活気にもつながり、山の課題解決が海に良い影響を与えます。それぞれの『点』をつないで『線』にしていくことが松宮さんの目標です。

 

 

松宮:

「たとえば、指定管理を受けているハーバルビレッジでは、ハーブソルトやハーブと海のワカメを使った七味『青葉の恵』を開発したり、ふぐの燻製づくり体験のワークショップを企画したり、海と山につながりを作る工夫をしています」

 

 

松宮:

「他にも、地元の有志団体『高濱明日研究所(通称:アスケン)』とコラボイベントを開催したり、地域の人に講師をお願いした体験を行ったり、商品開発に町の中学生の力を借りたり、いろいろな高浜の人たちと一緒に活動しています。町がつながるきっかけづくりがしたいんです」

 

 

松宮:

「僕は観光業こそ高浜の未来だと思っています。薬草が育つ山があり、アジアでトップクラスの海がある。これってすごい資源なんです。海も山もよく知っている自分だからこそ、町をつなげたいという思いも強いし、絶対になにかできるって信じてやっています」

 

 

山と海、人と自然、境界線のない地域づくりを目指している松宮さん。彼の活動は、いま、まさに新しい時代の地域との関わり方のモデルとなりつつあります。

 

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