2025.5.5
変わりゆく中で、変わらずあるもの。高浜七年祭とともにある町の姿
今年、令和七年は、佐伎治神社の式年大祭、通称「高浜七年祭」が行われる年にあたります。
このお祭は、約450年前に始まったとされる由緒ある行事で、記録によれば、いまだ一度も中止されたことがありません。
私は現在、佐伎治神社のホームページ制作を担当しており、今年は町内各地区で始まる芸能練習の様子や、祭りの準備の様子などをInstagramを通じてリアルタイムに発信したいと考え、取材を開始しました。
そして各地区を回るうちに、華やかな舞台の裏側で、祭を続けていくことの難しさにも少しずつ気づくようになったのです。
宮司に聞く
祭の継承の難しさ
多くの地区で「祭の担い手が足りない」という課題が、かつてなく深刻になっています。
お神輿を担ぐ駕輿丁(かよちょう)の不足、踊り手の減少、若連中の年齢が上がる…。以前から兆しはありましたが、今回はより明確にその問題が浮き彫りになっています。
この現状を、佐伎治神社の赤坂宮司はどう捉えているのか、お話を伺いました。(詳しくはInstagramにて)
宮司は次のように語られました。
赤坂宮司:
「これまでのお祭の全行程をなぞることは、もはや難しいでしょう。努力だけではどうにもならない問題であり、これまでにない種類の課題です。すぐに良い解決策を見つけるのは困難です」
今回の七年祭は、まさにそうした深い課題と向き合う節目となっています。
しかし希望もあります。今年初め、宮司と若連中の皆さんとの対話の場で出てきた言葉は、「もう無理だろう」ではなく、「何とかしてやっていこう」という、前を向いたものでした。
「なるべくこれまで通りの祭を続けたい」という先輩方の声を胸に、現有のメンバーで何ができるかを模索しながら、彼らは動き出していたのです。
人との関わりが生む
葛藤と希望
祭の準備では、普段の生活や職場以上に、密な人間関係の中で練習や相談を重ねていくことになります。そのなかで、思いがけない意見の食い違いや感情の衝突も起こりうるでしょう。
赤坂宮司は、そうした場面にこそ「まずはその場に足を運び続けてほしい」と話されました。
赤坂宮司:
「時間をかけて人と向き合い、違う視点から考えることで、見えてくるものがあるかもしれない。練習を重ねる中で、芸能を通じて新しい人間関係が育まれるかもしれない。そんな可能性にかけてみてほしい」
赤坂宮司:
「祭りを通じてできた “新たなつながり” は、災害などの非常時の助け合いはもちろん、今後の地域活性にも大きなヒントを与えてくれるかもしれません。」
芸能の練習という集合的な営みは、知らず知らずのうちに“人の力” を練り上げていくのだと感じます。
赤坂宮司:
「神様が望んでおられる芸能奉納の本当の意味は、実はそこにあるのではないか」
——この宮司の言葉は、私の胸に深く残りました。
祭が教えてくれること
これまでに、各地区の芸能練習の場を訪ねてきました。多くの区では、他地区からの参加者や、勤務先が高浜町であることを縁にした参加、移住者、さらには女性の若連中への参加など、関わる人の枠が大きく広がり、柔軟な対応が見られました。それが現場に、確かな活気をもたらしているように感じます。
特に印象的だったのは、小学生の踊り子たちが日本舞踊をすんなりと受け入れていたこと。これは、複数の保護者の方々が驚きと喜びをもって話してくださったエピソードでもあります。
初めての経験を通じて、子どもたちは、人前で舞うことの緊張と達成感、仲間と息を合わせる面白さ、そして地域の大人たちに見守られる温かさを感じ取っていたのかもしれません。
それはやがて、自分もこの町の一員として役割を持っているという誇らしさへと変わっていく——そんな、大切な何かが、静かに心に芽生えているように思えました。
また、太刀振や太鼓の厳しい練習に取り組む若者たちは、自分たちの姿を見に集まってくれる人々に励まされ、「もっと上手くなりたい」という想いを強めています。経験者の方々は、初めて祭に参加する若者たちの表情が、日を追うごとに輝いていく様子を嬉しそうに話してくださいました。
「こうやって祭が伝わっていくんやなぁ」
その言葉が示すように、「伝える」とは、単に型をなぞることではなく、自分の中にある力を見つけ、それを輝かせていくことなのかもしれません。ある若連中の方は、こう話してくれました。
「もちろん伝統を守ることは大切だと思います。でも、自分がやりたいからこの祭をやっている。その気持ちの方が強いんです」
七年祭が多くの人にとって「やりたい祭」であり続ける限り、たとえその形が少しずつ変わったとしても、人はこの祭を手放すことはないでしょう。伝統をどう受け止め、どう咀嚼(そしゃく)するのか。その答えを、すでに皆さんは日々の練習の中で体感しているのではないでしょうか。
宮司の言葉のように、お祭はこれからも毎回、少しずつ姿を変えていくのでしょう。そしてその変化は、祭りとの関わり方、人との関わり方、そして自分自身との向き合い方を少しずつ進化させながら、新しい形で伝統をつなごうとする流れの中にあるのだと思います。
変わっていくことの中にこそ、変わらずに受け継がれていくものがある…そう感じさせてくれるのが、この七年祭なのかもしれません。
—— 今夜も、窓の外から太鼓の音が響いてきます。
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新谷 径世(しんたに みちよ)
サウンドクリエイター。高浜町でピアノ教室を主宰しながら、作曲などの音楽活動を行う。佐伎治神社の広報も担当しており、高浜七年祭の練習風景などを取材し、Instagramで発信している。